ある時は男仕立ての消炭色のジャケットの胸に飾った、アンティークレースのポケットチーフに、ある時はゆるやかな長い髪に無造作にさした蒔絵の櫛に、またある時は日本でまだ持っている人がごく少なかった当時、わざと柔らかな革で作らせてカジュアルに持ち歩いていた黒のケリーバッグに、私の目は吸い寄せられた。頭の先から爪先まで、彼女の身につけているものは何もかも、大学を出たばかりの私には眩しく見えた。そしてそれがまねしてできるものではないことも、何となくわかっていた。何かが決定的に欠けていた。しかしそれが何かわからず、だから彼女に会った日にはときめいてしっかり観察すると同時に、いつも少しだけ打ちのめされたような気持ちになるのだった。ある日、彼女とふたりだけで食事をする機会があった。いつも先輩たちの後ろで密かに見ているだけだった私は、ドキドキしながらもとっさに知りたかったことを質問する機会が来た、と思った。